連載小説「雨の図書館」
第十二章
窓辺に残された手紙
雨は、朝から途切れることなく降り続いていた。図書館の高い窓を細い雫が伝い、古い街並みをぼんやりと滲ませている。
澪は返却台の本を一冊ずつ棚へ戻しながら、昨夜見つけた封筒のことを考えていた。宛名はなく、ただ表に小さな文字で「南の窓辺へ」と記されていた。
南閲覧室は、建物のいちばん奥にある。午後になると淡い光が差し込み、机の傷や紙の繊維まで静かに浮かび上がる場所だった。
窓辺には、昨日までなかった木箱が置かれていた。蓋の隙間から、生成り色の紙が覗いている。澪がそっと開くと、中には同じ筆跡で書かれた手紙が十二通、古い紐で束ねられていた。
一通目の日付は、ちょうど三十年前の今日だった。差出人の名前を見た瞬間、澪は息を止めた。それは、この図書館の記録から消えた司書の名だった。
手紙に記された場所については、作者ノート「旧館の南窓を訪ねて」でも紹介しています。